研修旅行記 in France


 
ロンシャン礼拝堂
                                           
  近藤健 
 この旅行は、4泊6日でパリ市内・郊外の建築群とフランス東部にあるロンシャンの礼拝堂を観て廻り研修することを目的としたParis研修旅行である。短い期間ではあるが、パリ旧市街の街並みと十数か所の建築物を観て廻った。これから行くロンシャンの礼拝堂は、パリから東に300Km程行ったところにあるスイス国境近くの小さな町の山の上に建てられている。
 2月9日 明日は飛行機に乗り日本に帰る。ロンシャンには、この視察研修の最終日にパリの東駅でTGVに乗りミュールーズ駅まで行き、そこでバス乗り継いで向かった。
 ヨーロッパは、このたびはじめて訪れたがフランスの歴史ある建築群と近代的な建築物を視察し実際にその歴史と文化にふれてみて感動をあじわった。
 このレポートは、ル・コルビュジェのロンシャンの礼拝堂について、実際に現地に行き視察によって、体感したなかから、感動し学んだことを報告する。  











  

今日は朝早く暗いうちから、東駅に行きTGVに乗ってミュールーズに向かった。フランスは昨晩から気温が下がり積雪の予報がでていた。車窓からはところどころで一面の銀世界が広がり雄大な景色が見られた。3時間ほどでミュールーズに着く予定であったが雪のため1時間ほど遅れて到着した。

ミュールーズの駅に着くと、スイスとの国境に近いためアルプス山脈が目の前に見え、少し楽しくなった。ミュールーズの駅からロンシャンには専用バスに乗りかえ1時間ほどかかった。

ロンシャンに向かう途中は、昨晩の積雪で真っ白な風景がバスの窓から目に飛び込んできた。小高い山の上に ロンシャンの礼拝堂が見えてきた。山の頂にある礼拝堂の駐車場からは眼下にロンシャンの町が一望に見渡せた。

 
   
バスを降り入口の門を開けなかに進んで行くと、きょうは誰も立ち入っていない礼拝堂が、雪の中にひっそりとたずんでいた。
 

ここは、もともと巡礼の地であり中世に建てられた礼拝堂は過去の第二次世界大戦によって失われ、ロンシャンの人々の再建の願いによりル・コルビュジェが設計し1955年に完成した。


 
 教会とは違い礼拝堂であり礼拝堂は聖人の名前などで呼ばれるのが一般的ではあるが、この建物は地名であるロンシャンの名で呼ばれている。

  (正式名称はシャペル・ノートルダム・ディオー礼拝堂)

 さらに、雪を踏みしめながら近づいていくと、そこは礼拝堂とは思えない奇妙で巨大な建物が出現した。
うねった曲線の異様な質感がある屋根が宙(そら)に向かって突き出している。
 これまでのサヴォア邸に見られる、コルビュジェの作品とはあきらかに違っていた。1927年に彼が示した、近代建築の5原則である1、ピロティ2、屋上庭園 3、自由な設計4、自由なファサード5、横長の連続窓 このどれにも該当しない。直線と直角で構成せれてもおらず、大きな窓も無い。 
 
 モデュロールにとらわれること無く、合理性と機能性を追及したものでもなかった。外観のほか平面的にも異様で斬新な設計は、これまでのモダニズムと違う設計手法によるものとして賛否両論あったと思われる。 


 近くで見ると、不時着した宇宙船か何かのようにも感じられる外観に圧倒されながら、正面である南側から時計とは反対廻りに歩いていくと見る角度が少し変わるたびに、つぎつぎとその形態を変える。生きている建築がそこにあった。
 屋根はロングアイランドの海岸で拾った、蟹の甲羅から発想したとも聞く。コンクリート打ち放しの屋根と白い壁が力強く、存在感をあらわしている。
     


 礼拝堂とは思えないような不思議な建造物である。唯一、東面に十字架と小窓にあるマリア像により礼拝のための場所だとわかる。

 礼拝堂の正面である南面の分厚い外壁には、無数の不規則にうがった穴があり、その横にはコルビュジェが描いたであろう、手をモチーフにした絵画の扉がある。東面は十字架のおかれた祭壇があり屋外に広々としたなだらかな丘がひろがる。

                  

 
 
 夏には、この芝の広場いっぱいに大勢の人々で埋め尽くされ、礼拝がおこなわれる。 北側にまわると北にも不規則な窓や階段があった。 この建物の出入り口も北側にあり、ここから内部に入ることができる。
    

   
 西には象か豚の鼻のような雨樋と塔屋状のものが突き出ており、象の鼻からは大屋根の雨水(あまみず)を集めて流しているのか雪が凍り垂れ下がっている。大雨が降る時には雨水(あまみず)が滝のように流れ落ち下の池に溜まる。

山の頂上であり昔、礼拝に訪れる人々にとって唯一飲料水を確保するためのものと思われる。

 
 これから、いよいよ礼拝堂の内部に入る。北面にある重厚な木製の扉を開けると、そこには前室があり、礼拝堂につながる扉をふたたび開けて、この建物の体内に進入した。
そこは外観と違い想像もしなかった驚きの空間があり、光と影の荘厳雰囲気を感じることができた。

 言葉にできない感動を覚えふるえた。
南側にある無数の大小不規則な窓からはステンドガラスによるさまざまな色の光が神々しく、ふりそそぎ光の道を創る。

 高いところにある、奥行きのある穴はそれぞれ角度がちがい、刻々と変化する太陽の光のうつりかわりを計算しつくし、正面中央の祭壇へと光を導く。ほかには唯一、ロウソクに灯されたあかりがあるだけだ。 



 祭壇の上部にある小さなガラス窓は内外からガラスが嵌込まれており、光につつまれたマリア像が微笑んでいて人々を神の世界にみちびいている。
下のほうの窓からは光がステンドガラスの絵を床に映りだしている。

 
 人々を沈黙させる雰囲気と美しさがあった。

内部の複雑な天井・壁、無数のうがった穴の形状によって音響的にもすぐれた設計がされており、ミサの日には人々の賛美歌を歌う声やピアノの音楽も、やさしく聞こえてきそうな雰囲気がある。自然の光と音を生かした祈りの空間が`そこにあった。この部屋の後ろの方には奇妙な空間があり、中央に聖書の置かれた祭壇がある。反対側にも同じような場所がもうひとつあり、上からやさしい光が降りてくる。外から見た搭屋状の窓から光がふりそそぎ、神に祈りをささげる。 


 ロンシャンは1958年に鉱山が閉鎖されるまで炭鉱で栄えた町であり、地下深くで、働く人々にとって吸気塔からさしこむ太陽の光に生きる喜びを感じ生活していた。 

コルビュジェは 祈り、平和、心からの喜びのための静寂な場所を創りたかったと語っている。コルビュジェは既成の概念にとらわれず、自由な発想を持ち続けた。人間の想像力と可能性の素晴しさを教えてくれた。

このたびの研修旅行では訪れることができなかったが、これ以後コルビュジェの晩年の代表作といわれ、おなじ様に光を意のままにあやつり演出した作品に、リオン郊外のラ・トゥーレット修道院がある。

再びフランスを訪れる機会があれば、ぜひ訪ねてみたいと思う。

                


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